長男のエムくんは現在5歳です。
生まれた時の体重は1434gの極低出生体重児でした。
私はHELLP症候群になり、エムくんを早産で出産することになりました。
30週3日目の夜中
長女のエルちゃんが寝た後、私の自由時間が始まります。
エルちゃんは寝つきがあまりよくなく、赤ちゃんの頃はエルちゃんが眠るまで、長い時では2時間以上抱っこで寝かせていました。
その日も1時間ほど添い寝をして寝かしつけたあと、リビングで一人のんびりと、撮りためていた録画を見ていました。
夫は翌日の仕事に向け、そろそろ寝る準備をして自室にこもっています。
私はまだまだ一人時間を楽しむつもりでした。
夜の11時頃でしょうか。急に胃の痛みを感じました。
私は滅多に、というより人生でほとんど胃痛を感じたことがなかったので、この痛みがなんの痛みか分かりませんでした。
痛みはどんどん増していき、私は居ても立っても居られなくなり、ソファに寝転がってみたり、床に這いつくばってみたり、なんとか痛みから逃れる方法を探しましたが、どんな体勢も効果はありませんでした。
5、6分、いや、もしかしたら30分くらい?私は一人でのたうち回り、なんとか少し落ち着いて来た頃、ようやく夫の部屋に助けを求めに行きました。
私の表情があまりに凄まじかったのか、夫は慌てて起き上がりました。私がお腹の上のほうがとても痛い、これはなんだと訴えると、それは胃痛というものだと教えてくれました。
夫はとりあえず妊婦健診でお世話になっている総合病院へ電話をかけてくれました。
そちらで妊婦検診を受けている妻が胃痛で苦しんでいる、と伝えると、どうやらあまり芳しくない返答が返ってきたようでした。
やれ、今日は担当医がいないだの、それ系の症状を診れる医師がいないだの、のらりくらりとかわされたような印象でした。
しょうがないので電話を切り、でもまだ私の胃痛は続いていたので、今度は♯7119に電話をしてくれました。
♯7119とは、救急車を呼んだ方がいいのか判断を迷ったときに相談できる「救急安心センター事業」のことです。
妊婦健診に行っていた病院でとりあえず様子を見てみろと言われ、でもまだ痛みは続いているし、救急車を呼んでいいものかどうか迷った私たちは、専門家にアドバイスをもらいたかったのです。
夫が電話をかけてくれましたが、電話口に出た相談員の方に本人と話をしたいと言われ、私は電話口に出ました。
胃痛が始まってから今までの経緯を相談員の方に話しましたが、実は少しずつ胃痛は治まってきていました。
一通り話を聞いてくれたあと
「で、あなたはどうしたいですか?救急車を呼びますか?」
と問いかけられました。
私は正直「え!?」と思いました。てっきり、そちらで判断してくれるものだと…。
ですが、よくよく考えたら、最終判断は自分ですよね。自分で責任を取るべきです。
私は迷った挙句、「救急車、お願いします」と言いました。
相談員の方はすぐに救急車を手配しますと請け合ってくれました。
でも、その頃にはもう、胃痛はだいぶ治まっていました…。
救急車の中へ
我が家は私も夫も実家が遠方で、私が救急車で運ばれることになったとしても、エルちゃんの面倒を見てくれる人は誰もいません。
さすがに救急隊の方も、私一人で救急車に乗るようには言いませんでした。
救急車で運ばれるのも家族総出です。親が近くに住んでいたらな、とこの時ほど思ったことはありませんでした。
もうすぐ3歳になるとはいえ、エルちゃんはまだまだ幼い子どもです。当然、夜中に起こされて目いっぱい不機嫌です。
そんなエルちゃんを夫が抱っこし、3人で救急車に乗り込んだ時にはもう日付が変わっていました。
救急車では搬送先の病院を探してくれますが、私が妊婦なのもあり、妊婦検診に通っていた病院へ搬送してほしいと伝えました。
高齢出産だから、こんな時のために総合病院を選んでいたんですから。
救急隊員の方が、通っている総合病院に連絡をしてくれると、先方から、さっき電話をかけてきましたか?と聞かれたようです。
「こちらの病院に先程お電話されましたか?」
と尋ねられ、「さっき電話した者です」と答え、先程の芳しくない電話内容を思い返しましたが、受け入れ拒否はされませんでした。
実は、救急隊員の方が家に到着した頃、私の胃痛はほとんど消えていました。
救急車に運ばれる途中でも、私は言い訳がましく、今はもうあまり痛くないんですケド…などと言いながら救急車に向かいましたが、隊員の方は迷惑そうな顔ひとつせずうんうんと話を聞いてくれました。
さすがに思いました。もうあまり痛くない胃痛を訴えて、救急車を要請し、家族総出で病院に搬送してもらうって…。
もしかしてとても迷惑な妊婦なのかなって。
でも、妊婦だからこそ胃痛でも救急車を呼んだわけだし、その胃痛が尋常じゃないくらい激痛だったから救急車が必要だって自分で判断したわけだし、、もうあまり悩むまい。
救急車の中ではまず血圧を測られます。隊員の方が私に聞きました。
「血圧は普段から高い方ですか?」
私は普段、血圧は上が110くらい、下が70くらいで、血圧にとても自信があったので、
「いいえ、血圧は高くありません」
と答えると、
「今は上が197です」
と言われました。
私は思わず起き上がり、血圧計を二度見しました。が、確かに197とありました。
この時はまだ、ん?なんか思ってたんと違う、という感じでした。
かかりつけの総合病院に到着
いつも妊婦検診で通っている時は昼間なので、夜間の病院というものに初めてお世話になりました。
見慣れた診察室なのに薄暗くて非日常的で、不謹慎にも少しワクワクしてしまいます。
すっかり目が覚めたエルちゃんは、私と離れるのを嫌がり、診察室に一緒に入れてもらえました。
血液検査、尿検査を行い、結果が出るまで当直の女性医師が丁寧にエコーで赤ちゃんを診て下さいました。
赤ちゃんは元気に動いていて、ようやくひとまず安心出来ました。
その頃夫は待合室で、電話でも言われたように、今夜は医師がいないとの説明を受けていたようです。
血液検査の結果が出て、女性医師に肝臓の数値がすこぶる悪いと言われました。
私は肝臓=お酒という短絡的な図しか頭に浮かばなかったので、妊婦だし、お酒は飲んでないのにな、とお気楽に考えていました。
その後あれよあれよと尿道カテーテルを通され、やっぱりこの病院ではこれ以上は診ることができないから転院先を探してるよ、ということを言われ、ほどなくしてまた救急車に乗せられました。
この時の私は来た時とは随分違い、ストレッチャーに乗せられ、診てくれた女性医師も付き添って下さり、なんだか大掛かりな装いになって転院先の大学病院に運ばれました。
その後、この病院に来ることは一度もありませんでした。

